2026.11.03 [イベントレポート]
TIFFティーンズ映画教室10周年の歩み 歴代の特別講師&参加者が結集

第39回東京国際映画祭(TIFF)で11月3日、ユース部門のイベント「TIFFティーンズ映画教室 10周年記念」がTOHOシネマズシャンテで行われ、歴代の特別講師、参加者が集まり過去10年の歩みを振り返った。

2017年にスタートした「TIFFティーンズ映画教室」は、子どもたちがプロの映画監督とともに、数日間かけて本格的な短編映画づくりに挑む映画教育プログラム。「大人は手出し、口出しをしない」「本物の大人たちと出会う」という命題をもとに、チームの仲間と協力しあいながら映画を完成させ、映画の楽しさを見いだしていくことを目標としている。

イベント前半では、過去の制作作品の上映とともに、当時の特別講師陣(諏訪敦彦監督、杉田協士監督、瀬田なつき監督、早川千絵監督)と参加者が登壇し、当時の思いを振り返った。

初年度である2017年の映画『1人ぼっちBOX』に参加した服部柚さんは、「中学生まではわりと勉強をがんばってきて。正解を出すための頭の使い方をしてきたんですけど、映画教室では、正解があるわけではなくて。みんなの面白い意見を取り入れながらも、良くなるための道をみんなで探っていった。フラットに話し合うことで自尊心が育ったと思います」と述懐。諏訪監督も「どこにたどり着くか分からないまま前に進み、そこにみんなが関わることで等しく映画の一部になっていく。それが良かったなと思いました」と振り返った。

映画作りにおける「対話」の重要性は、他のチームでも共通していたようで、杉田監督が講師を務めた2019年参加の徳井泉さんは、「小学校の時に映画教室に参加したことがあったんですけど、その出来に満足できなくて。納得できなくて泣いたというのが(こども映画教室で)語り継がれていたようです」と笑いながらも、「それからも映画教室に何度も参加したけど、誰かと一緒につくるというのが相当楽しかったということと、出来に満足できなかったということもあり、自分にとっても映画をつくる場所が居場所になった」とコメント。杉田監督も「今日、久々に観たらあまりにも胸を打たれて泣いてしまいました。なんてかわいい子たちなんだろうと。本当に純粋な平和な時間が映ってて、なんか自分が目指す平和はこれだなと思いました」と感慨深い様子で語った。

また、コロナ禍の2021年に完全リモートで制作された『ここにいるよ?』では、瀬田監督の監修のもと、参加者が各自のスマートフォンで撮影に挑んだ。参加者の坂田慧さんは「中学生の時のワークショップはみんながそれぞれ別の場所にいて。コロナ禍特有の、みんなが自分自身のことを深く考えていた時期だったから、みんなが抱えてる孤独感のようなものが映画に出ているなと思いました」。映画祭も楽しんでいるようで、「コンペ作品や溝口健二の作品を観ることができて、本当にありがたかったです!」と笑顔を見せた。またワークショップが終わった後も、参加者たちと一緒に映画を観に行くこともあると明かした。

早川監督が講師を務めた2022年の『夏を覗く』では、中学生と高校生が混合で参加。高校生になった徳井泉さんも参加している。当時中学生だった山本詩大さんも、高校生との共同作業に「最初のうちは遠慮もあったんですけど、日を重ねるうちに打ち解けるようになりました。基本的にこれは(徳井)泉のアイデアをもとに出発した映画なので、中学生と高校生を混ぜるのは非常に刺激になりました」と振り返る。早川監督も「実はこの映画、自分が教えている学生によく見せているんですけど、この大きなスクリーンで見るのは久しぶりで、やっぱりいいなと思いました」と感慨深い様子で語った。

イベント中盤では、過去の参加者である山田椋さん、弓立澄子さん、岡村くるみさん、苫野凛子さん、昆夏穂さんによるクロストークが実施された。一般社団法人こども映画教室(R)の代表・土肥悦子氏の進行のもと、成長した彼らが当時の思い出を語った。

西川美和監督が特別講師を務めた年に参加した苫野さんは、「丸一日を話し合いに費やした日もあったくらいで。神経が切れてしまうかと思うほど、ずっと話をしていた思い出があります。仲間と一緒に、こんなにもひとつのことについて深く対話して、何かを形にしていくことが初めてだったので、“出会ってしまった”感じがしました」。同じ年に参加した山田さんも「やはり僕も1年目が楽しかったから、2年目ももう1回行きたいなと思って参加したところがある。チームが変わって人が変わると映画の撮り方も違うんですよね。みんなでこういうことがしたいんだよね、ということを話し合って、実際に撮る、という体験って、普通に学校に行ってるだけじゃできないと思うんです。それがすごく貴重で楽しかった」と語る。

弓立さんも「参加するたびに映画を観るのがもっと楽しくなってきて。映画ってすごいなと思いますし、作品ができるとTIFFの場で、映画館で上映してもらえるのもうれしい。この経験があるからこそ、映画をつくりたいと思いますし。これからもずっとやりたいなと思えるものが見つかったなという感じがします」と語るなど、映画教室での経験が糧になっているようだ。

また岡村さんも「撮影前に半日以上かけて話し合ったことも、現場の撮影では変わっちゃったりもします。それが面白いところで、そこから得られるものがあるなと思います。あらかじめ決められたものではなくて、その場で監督や演者らがどう撮りたくなったのか、という衝動が大切なんだなと。それは変わっていくことから学んだことですし、今でも大切にしたいなと思っているところ」と力強く語った。

さらに「これは土肥さんにも言ったことがなかったんですけど、自分の夢が決まった場所」と語る昆さんも、「わたしが最初に映画を好きになったのは、是枝監督の『誰も知らない』を観たときでしたが、実は小学生の頃、映画をつくっている大人は怖いなと勝手に思っていて。将来、映画を仕事にするのは無理かなと思っていたんですけど、中1で参加した時の三宅唱監督がすごく優しくて、面白くて。そういう人たちがいるなら将来、映画の仕事をしてみたいなと思いました」とコメント。現在は上京し、是枝監督が教員を務める大学に進学しているとのことで、「毎日が楽しいです」と笑顔を見せた。

そして苫野さんも「映画教室で出会った大人の人たちは皆さん本気。一度も子ども扱いされず、映画を作る人として扱ってもらえたことが大きくて。だから映画をつくることの面白さを感じましたし、これを職業とできたらいいなと思いました。ここで出会った仲間は人生の財産。自分が何を撮るべきか考えるようになって、世界を見れたような気がします。今、いろいろと学んでみようという気持ちになったのは、ここに来られたおかげかなと思います」と力強く語った。

本イベントには、フランス教育省クレテイユ学区教育芸術・文化活動局(DAAC)映画教育アドバイザーのイザベル・ブルドン氏も来場。「皆さんの作品のクオリティーと感性がすばらしかった。本当にすばらしかったです。そして皆さんは将来、映画の仕事に進みたい方が多いようなので、皆さんが将来発表する映画が楽しみです。ブラボー!」と惜しみない賛辞が送られた。

最後に挨拶に立った土肥氏は「10年というのはあっという間だったなと思います。みんなで映画をつくるという体験はものすごい財産だと思うんです。小学生の頃と違い、中学生になると、これを仕事にしたい、ずっとこれをやっていきたいと思うような段階にきているのかなと思いました。10年間、ずっとやってきたこと。とにかく大人が手出し口出しせず、真剣な映画人として常に一緒に走ってきたことは本当に間違いじゃなかったなと思います。それもこの企画をサポートしてくれるスタッフたちの献身的な支えがあったからだと思います。この映画教室がずっと続いていくことを本当に願っています」と深い感謝の思いを述べた。

また同日、ユース部門のイベント「TIFFティーンズ・シネクラブ2026報告会」も同館で行われ、シネクラブ部員として参加した俳優の岸井ゆきのが、作品について自由に語り合う鑑賞ワークショップ「TIFFティーンズ・シネクラブ」について報告をした。

今回、岸井たち参加者が鑑賞することになったのは、本映画祭ユース部門作品となるギリシャ、ドイツ、フランスの合作映画『ジョーの一日:フェドラ編』。2008年にギリシャのアテネで、15歳の少年が警察官に射殺された事件から着想を得た作品で、ありふれた日常を形而上学的に捉え、魂や精神をも提示することに挑んだ野心作となっている。

シネクラブ部員として岸井にオファーを出した理由として「もともと岸井さんのことを映画の中にずっと生きている人だと勝手に思っていたので。いつか岸井さんにお願いできたらいいなと思っていたんですが、岸井さんが筋金入りの映画ファンであることはまったく知らなかった」と明かした土肥氏。そんな時に岨手由貴子監督が、岸井を主演に迎えて撮った映画『すべて真夜中の恋人たち』を土肥氏がたまたま試写で観る機会があり、そこからすべてが始まったという。

岨手監督は以前、映画教室の講師として参加したこともあったため、「映画に心震わされた」といった趣旨の熱い思いをしたためた感想メールを送ったところ、「彼女(岸井)はものすごい映画ファンだから、この感想は喜ぶと思う」という返信があり、その言葉にビビッときたという土肥氏。そこで岨手監督に「シネクラブ部員を、岸井さんにお願いしたいんだけど、どう思う?」と尋ねたところ、「めちゃくちゃいいと思う。彼女は本当に映画ファンだから」という返事があったということで、トントン拍子で決まっていった。

岸井は「こども映画教室の話は、岨手さん以外の方からも、いろいろと聞いていたのでずっと興味があって。前から楽しそうだなと思っていました。だからこういう形で参加できて、とてもうれしかったです」と明かした。

他者とともに映画を語り合うということについては「わたしは映画をひとりで観るタイプ。昔からだれかと語り合うこともなかった。『アベンジャーズ』でさえ、ひとりで見に行くタイプ。だからこういうことに挑戦するのは初めてだったのでドキドキしたんですが、(課題となった)映画自体がすごく神秘的でしたし、画面に映るものをどう捉えるかということで、みんなそれぞれに意見がある映画だろうなと思いました」と振り返った。

また、岸井自身が映画を観る際には、俳優としての視点ではなく、いち映画ファンとして没頭しているという。「わたしは本当に話に没頭するのが好きなので。たとえば昨日、東京国際映画祭で(マーティン・マクドナー監督最新作となる)『ワイルド・ホース・ナイン』を観たんですけど、もう最高なんですよ。最初から完璧で。だから俳優ということよりも、映画を観ることができて幸せ、という気持ちになります」と語った。

ワークショップの場では「キッシー」と呼ばれていたという岸井。実際に高校生たちと対話した時を振り返り、「わたしは本当に緊張していたのに、みんなは誰ひとり緊張していなかった」と笑う。「皆さんはちゃんと自分の意見を持っているし、わりとシンプルでピュアな言葉で、わたしはこう思う、僕はこう思うというように意見を伝えてくれるので、とても面白かったです」と新たな発見に目を輝かせた。

土肥氏が投げかけたのは「この映画はどんな“成分”でできていると思いますか?」という問いかけだった。そこで岸井と高校生たちは「魂」「空」「水分」「家族関係」など、それぞれが心に思いついた言葉をそれぞれにふせんに書き出し、その言葉をもとに互いに語り合い、自分の考えを深めていった。

実は参加者たちは、岸井に会う前に『ケイコ 目を澄ませて』を鑑賞してきたとのことで、ストイックなボクサーを演じたスクリーンでの姿と、実際に対面した岸井とのギャップに驚いたようだ。参加者たちからも「やはり画面越しと直接で見るのは全然違う」「言葉使いがきれい。とても素直に言葉が伝わってきて、いろいろな言葉を知っている人だなと思った」「増量が大変だったと聞いて、俳優って大変なんだなと思った」などといった感想が飛び出した。

対する岸井も「私自身、高校生のみんなと関わることがそもそもないですし、現場に子役の子がいたとしても、ひとりだったりするものなので、こういう風にもみんなとおしゃべりする機会がなかなかなかったんです。でも映画を通じてだと年齢の差を全然感じなかった。やはり年齢とかは関係なく、映画って楽しく見られるんだなと感じましたし、これからもみんなからはキッシーって呼ばれたままでいたいなと思っています」と笑顔で締めくくった。
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