2026.11.04 [イベントレポート]
谷崎潤一郎原作、老人の性描くウェイン・ワン監督作で主演のリリー・フランキー「エロは世界を繋ぐ」

第39回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門出品作『Diary of a Mad Old Man(原題)』が11月3日上映され、『ジョイ・ラック・クラブ』『スモーク』などで知られる名匠ウェイン・ワン監督、俳優のリリー・フランキーと斎藤工が舞台挨拶とQ&Aを行った。

谷崎潤一郎の小説「瘋癲老人日記」を現在の東京を舞台に映画化、リリー・フランキーが主人公のウツギ、ファン・ビンビンがヒロインのスースーを演じる。

リリーは主人公を演じることになった経緯について、「ワン監督が老人の性をテーマにした映画を撮りたいという話は、10年くらい前から聞いていて、脚本の段階で少し相談されていました。いろいろと進まないままでいたら、「いろんなアメリカの俳優に断られたから、もうお前でいい」と言われて、俺が出ることにとなった(笑)」と話すと、そのコメントにワン監督は「実は断ったのは彼ら(外国の俳優)ではなく、私です。この映画に白人男性が出てしまうと違和感があると思ったのです」と訂正した。

リリーは「結果的に日本人と中国人のキャスト、そして中国系アメリカ人であるワン監督による、平和な成り立ちの映画になりました。「エロは世界を繋ぐ」というか(笑)」と、満足げ。ワン監督も「この時代にはさらにこういった映画が必要になるでしょう」と深く同意していた。

映画は脳梗塞の後遺症で性的能力を失った老人が、そのリハビリのために訪ねてくる長男の妻に欲情するさまを描く。「障害を持っている方や、おじいさんやおばあさんは性に対する意識がなくなっている人として社会の中にいなければいけない。そういった若い人たちのエゴがあるけれど、でもそんなわけない」とリリー。そして、「かつての日本映画に出てくる、息子の嫁に手を出すおじいさんはマッチョで、女性を弱いものとして扱うような気持ちの良くないシチュエーションでしたが、でもワン監督の少年のようで清潔な人が描くと、おじいさんの性欲が笑える感じになって、最終的に“いとおかし……”というような、悲しさもある。カナダでの上映では、みんなお腹がちぎれるみたいに笑っていました」と、作品のテーマと味わいについて語った。

そしてトークは、劇中でうなぎを印象的に用いるシーンの話題に。そもそも「もともとの台本には全くなかった」そうで、ワン監督が「この映画をこのまま撮影すると、ただの良い映画になってしまう」と悩んだ末のアイデアだったとリリーが明かす。ワン監督は「谷崎の原作で、主人公が歌舞伎の女形と関係を持つシーンがあります。そこが頭にあったのでしょう。そして、リリーさんが快くそのアイデアを受け入れてくださったことに感謝しています」と述懐。そのシーンの撮影後、リリーが現場スタッフらにうなぎの弁当をふるまったエピソードも明かされた。

ワン監督の演出や編集について、観客から質問が上がると「監督の現場は、次の日何を言うか分からないから、すごくニュートラルな感じで現場に行って瞬発力を試される」とリリー。ワン監督は「編集で一番大切なことは、物語や主人公に直接関係のないものは、思い切って切ること。それが物語の真髄になります。昔、フランシス・フォード・コッポラのビルのオフィスにいた頃、ポール・シュレイダーが『MISHIMA』を編集している時にそう教わりました」と語る。

日本語と中国語のセリフを交えながら初共演したファン・ビンビンについては「彼女が現場にいると華やかになって、撮影しているときから映画にしてくれる感じ。朗らかで、お芝居に対してすごく誠実な方です。彼女が映った瞬間、「わぁ、映画を観てるぞ」って感じがします」とリリー。「足を舐めるシーンの直前まで、フランス人のペディキュアの技術者を呼んでずっとメンテナンスをして下さったり、深夜に酔っ払って帰ってくるシーンも、彼女はそんなにお酒を飲まないのに「恥ずかしいので、ちょっとお酒を飲みましょう」と言って、高級なウイスキーとワインを買ってきてくれ、2人で少し飲んで…本当にチャーミングな方でした」と振り返る。

ビンビンと夫婦役を演じた斎藤は「ウェイン監督が谷崎潤一郎の原作を映画化しようとしているという話を、かなり前から噂として聞いていたので、1人の映画ファンとしてもこの映画が完成したこと、そして皆さんに観ていただけたことを幸せに思う」と感慨深げにコメントしていた。本作は来年夏の劇場公開が決定している。
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