東京国際映画祭公式インタビュー 2026年10月31日
アジアの未来部門『ミラクルサマー』 →作品詳細

©2026 TIFF
サイ・ユウリン(監督/脚本/プロデューサー/編集)
デザイン会社に就職して以来、ずっと仕事に追われてきた主人公・真尋(まひろ)。東京の暮らしに疲れた彼女が久しぶりに故郷・高知で過ごす夏休み。ゆっくりと流れる時間にちょっとした違和感を覚える彼女だったが、ある日、弟とその仲間が熱中する“小さな存在”の捕獲作戦に巻き込まれたことから、純真だった子どもの頃の好奇心に満ちた日々の記憶を思い出していく。
東京藝術大学大学院映像研究科を修了後に、撮影監督としても活躍中の新鋭・蔡融霖(サイ・ユウリン)監督、32歳。長編デビューとなる本作は、緑豊かな高知県の自然を背景に、童心に返りながら心を癒やしていく女性の姿を瑞々しく描いたSF青春映画。大自然を捉えた圧倒的な映像美と卓越した演出が、映像作家としての高い可能性を感じさせる。
──1972年に高知市の中学生が小型UFOを捕まえたとして話題になった「介良(けら)事件」に着想を得たと伺いましたが、映画化のきっかけは?
サイ・ユウリン監督(以下、サイ監督):子どもの頃からSFが大好きで、UFOや宇宙人に興味を持っていました。ですから2014年に中国から日本に来た直後から、日本のオカルトやUFOの事件について調べていました。なかでも「介良事件」に興味を持ち、いつか映画にしたいと思いました。ただ介良事件は、中学生が手のひらサイズのUFOを見つけて、家で実験したりするのですが。子どもを主人公にすると、ただワイワイ楽しいだけの映画になってしまう可能性が高い。映画には僕自身の経験や想いを物語に織り交ぜたいと考え、いろいろ設定を置き換えて描くことにしました。

──主人公・真尋には監督の経験が反映されているということですか?
サイ監督:そうですね。20歳の時に日本に来て日本語学校に1年通って、武蔵野美術大学映像学科に入学しました。そこは特に監督や撮影といった専門コースに分かれておらず、それぞれが監督作品を作る感じで、僕も3年生の時に短編を作りました。ただみんなが監督なので人手が足りなくて、学生同士が撮影や照明などを助け合って作っていました。同時に教授のお手伝いもさせていただいて、いろんな撮影に参加してたくさんの作品に関わりました。その後、1年弱ほど一般企業で働いていましたが…。僕は、一応留学生なので、卒業後も日本に滞在するにはビザが必要です。それには会社に入るか会社を作るかの二択しかなかったのです。
──それで、主人公と同じく会社勤めを経験?
サイ監督:映画とはまったく関係ない会社に就職したのですが、大学時代に映画を作っていた経験が忘れられなくて、会社に通うのがものすごく苦痛だったというか。毎日、満員電車に乗って会社へ行くのがかなりしんどくて、1年足らずで辞めました(笑)。それで「もう一度映画を作る」と決心して、もともと撮影にも興味があったので、東京藝術大学・大学院映画専攻・撮影照明領域に進学しました。つまり僕の癒やしの場は映画作りにありました。それを真尋の場合は高知の実家で過ごすことで癒やされ、心をリフレッシュするという設定に置き換えました。
──ロケ地選びなどはどのように?
サイ監督:東京藝大の2年生の時に制作を開始して、まず介良事件のあった高知にロケハンに何回か行きました。事件現場を見て、実際の事件に関わった人々にもインタビューをして。でも学校のある横浜から高知まで12時間かかるんです。正直、最初は時間もお金もかかるから高知は諦めようと思ったのですが、幸運なことに、高知県出身の方が社長の東京映画社さんとご縁ができて。その会社は高知の安田町に映像村を作られていて、「地元を発展させるためにも、ぜひ高知で撮ってください」とおっしゃってくださって。全面協力していただきました。

──真尋を演じた山本奈衣瑠さんをはじめ、キャスティングはどのように?
サイ監督:奈衣瑠さんは、東京藝大の先輩の作品に出演されている姿を観て「すごくいいな」と思っていたのでオファーしました。奈衣瑠さんは、独特の雰囲気を持っている方で、すごく印象に残るんです。自然体でありながら、どこか惹きつけられる魅力があって、高知の田舎の風景にも自然に馴染むんじゃないかなと思いました。
──弟・洸平役の番家一路くんとその仲間は?
サイ監督:番家くんは金沢知樹監督『サバカン SABAKAN』(22)ですごいなと思っていたので、オファーしました。で、一度会ってみたらものすごく身長が伸びていてびっくり(笑)。それで劇中に、「背、伸び過ぎじゃない?」みたいな姉のセリフを一個追加しました。他の谷岡真緒ちゃんと上山就暉くんは、高知で開いたオーディションで選びました。全編が土佐弁なので現地の子どものほうがセリフを言いやすいということと、なにより子どもの純粋さを感じさせる輝きが決め手になりました。
──初の長編作で、子役を含めた俳優たちの演出をした感想は?
サイ監督:やはり初めての長編ということもあって、いろいろと試行錯誤しながらの撮影でした。特に子どもたちの演出では、こちらの意図を伝えつつも、あまり細かく指示しすぎず、できるだけ自然な表情や反応を引き出せるように心がけました。演出だけでなく、撮影やスタッフとのコミュニケーションなど、考えることも多かったのですが、その分、映画を作ることの面白さを改めて感じることができました。
そして今回、東京国際映画祭の上映で客席の一番後ろから完成した作品を観た時は、鳥肌が立つくらいに嬉しくて、最後まで作って本当によかったと心から思いました。
──ラストにサプライズがあり、ですが?
サイ監督:終盤の展開は、当初からアイデアとして考えていました。この映画は子どもの頃の記憶に関する物語だと思うのですが、記憶というのはかなり曖昧な感じで、大人になるにつれ、本当にあった事かどうかもわからなくなる。そんな、昔を振り返った時の記憶の断片的で抽象的な思い出を、実写ではない手法で表現したいと思っていたので。結局、あの3分間のアニメーションが完成するまで1年かかりましたが、待った甲斐があったと満足しています。
──次回作は?
サイ監督:今回はわりと明るく楽しい作品だったのですが、SF好きの僕としては、もっとダークというかホラー気味のSFっぽい作品を作ってみたいので、次に挑戦します。でも、まずはこの作品が来夏の劇場公開を目指しているので、みなさんに劇場でぜひ観ていただきたいです。
インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
東京国際映画祭公式インタビュー 2026年10月31日
アジアの未来部門『ミラクルサマー』 →作品詳細

©2026 TIFF
サイ・ユウリン(監督/脚本/プロデューサー/編集)
デザイン会社に就職して以来、ずっと仕事に追われてきた主人公・真尋(まひろ)。東京の暮らしに疲れた彼女が久しぶりに故郷・高知で過ごす夏休み。ゆっくりと流れる時間にちょっとした違和感を覚える彼女だったが、ある日、弟とその仲間が熱中する“小さな存在”の捕獲作戦に巻き込まれたことから、純真だった子どもの頃の好奇心に満ちた日々の記憶を思い出していく。
東京藝術大学大学院映像研究科を修了後に、撮影監督としても活躍中の新鋭・蔡融霖(サイ・ユウリン)監督、32歳。長編デビューとなる本作は、緑豊かな高知県の自然を背景に、童心に返りながら心を癒やしていく女性の姿を瑞々しく描いたSF青春映画。大自然を捉えた圧倒的な映像美と卓越した演出が、映像作家としての高い可能性を感じさせる。
──1972年に高知市の中学生が小型UFOを捕まえたとして話題になった「介良(けら)事件」に着想を得たと伺いましたが、映画化のきっかけは?
サイ・ユウリン監督(以下、サイ監督):子どもの頃からSFが大好きで、UFOや宇宙人に興味を持っていました。ですから2014年に中国から日本に来た直後から、日本のオカルトやUFOの事件について調べていました。なかでも「介良事件」に興味を持ち、いつか映画にしたいと思いました。ただ介良事件は、中学生が手のひらサイズのUFOを見つけて、家で実験したりするのですが。子どもを主人公にすると、ただワイワイ楽しいだけの映画になってしまう可能性が高い。映画には僕自身の経験や想いを物語に織り交ぜたいと考え、いろいろ設定を置き換えて描くことにしました。

──主人公・真尋には監督の経験が反映されているということですか?
サイ監督:そうですね。20歳の時に日本に来て日本語学校に1年通って、武蔵野美術大学映像学科に入学しました。そこは特に監督や撮影といった専門コースに分かれておらず、それぞれが監督作品を作る感じで、僕も3年生の時に短編を作りました。ただみんなが監督なので人手が足りなくて、学生同士が撮影や照明などを助け合って作っていました。同時に教授のお手伝いもさせていただいて、いろんな撮影に参加してたくさんの作品に関わりました。その後、1年弱ほど一般企業で働いていましたが…。僕は、一応留学生なので、卒業後も日本に滞在するにはビザが必要です。それには会社に入るか会社を作るかの二択しかなかったのです。
──それで、主人公と同じく会社勤めを経験?
サイ監督:映画とはまったく関係ない会社に就職したのですが、大学時代に映画を作っていた経験が忘れられなくて、会社に通うのがものすごく苦痛だったというか。毎日、満員電車に乗って会社へ行くのがかなりしんどくて、1年足らずで辞めました(笑)。それで「もう一度映画を作る」と決心して、もともと撮影にも興味があったので、東京藝術大学・大学院映画専攻・撮影照明領域に進学しました。つまり僕の癒やしの場は映画作りにありました。それを真尋の場合は高知の実家で過ごすことで癒やされ、心をリフレッシュするという設定に置き換えました。
──ロケ地選びなどはどのように?
サイ監督:東京藝大の2年生の時に制作を開始して、まず介良事件のあった高知にロケハンに何回か行きました。事件現場を見て、実際の事件に関わった人々にもインタビューをして。でも学校のある横浜から高知まで12時間かかるんです。正直、最初は時間もお金もかかるから高知は諦めようと思ったのですが、幸運なことに、高知県出身の方が社長の東京映画社さんとご縁ができて。その会社は高知の安田町に映像村を作られていて、「地元を発展させるためにも、ぜひ高知で撮ってください」とおっしゃってくださって。全面協力していただきました。

──真尋を演じた山本奈衣瑠さんをはじめ、キャスティングはどのように?
サイ監督:奈衣瑠さんは、東京藝大の先輩の作品に出演されている姿を観て「すごくいいな」と思っていたのでオファーしました。奈衣瑠さんは、独特の雰囲気を持っている方で、すごく印象に残るんです。自然体でありながら、どこか惹きつけられる魅力があって、高知の田舎の風景にも自然に馴染むんじゃないかなと思いました。
──弟・洸平役の番家一路くんとその仲間は?
サイ監督:番家くんは金沢知樹監督『サバカン SABAKAN』(22)ですごいなと思っていたので、オファーしました。で、一度会ってみたらものすごく身長が伸びていてびっくり(笑)。それで劇中に、「背、伸び過ぎじゃない?」みたいな姉のセリフを一個追加しました。他の谷岡真緒ちゃんと上山就暉くんは、高知で開いたオーディションで選びました。全編が土佐弁なので現地の子どものほうがセリフを言いやすいということと、なにより子どもの純粋さを感じさせる輝きが決め手になりました。
──初の長編作で、子役を含めた俳優たちの演出をした感想は?
サイ監督:やはり初めての長編ということもあって、いろいろと試行錯誤しながらの撮影でした。特に子どもたちの演出では、こちらの意図を伝えつつも、あまり細かく指示しすぎず、できるだけ自然な表情や反応を引き出せるように心がけました。演出だけでなく、撮影やスタッフとのコミュニケーションなど、考えることも多かったのですが、その分、映画を作ることの面白さを改めて感じることができました。
そして今回、東京国際映画祭の上映で客席の一番後ろから完成した作品を観た時は、鳥肌が立つくらいに嬉しくて、最後まで作って本当によかったと心から思いました。
──ラストにサプライズがあり、ですが?
サイ監督:終盤の展開は、当初からアイデアとして考えていました。この映画は子どもの頃の記憶に関する物語だと思うのですが、記憶というのはかなり曖昧な感じで、大人になるにつれ、本当にあった事かどうかもわからなくなる。そんな、昔を振り返った時の記憶の断片的で抽象的な思い出を、実写ではない手法で表現したいと思っていたので。結局、あの3分間のアニメーションが完成するまで1年かかりましたが、待った甲斐があったと満足しています。
──次回作は?
サイ監督:今回はわりと明るく楽しい作品だったのですが、SF好きの僕としては、もっとダークというかホラー気味のSFっぽい作品を作ってみたいので、次に挑戦します。でも、まずはこの作品が来夏の劇場公開を目指しているので、みなさんに劇場でぜひ観ていただきたいです。
インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)