2026.11.01 [イベントレポート]
「シルバー・エクスプレス」で映画初主演の岡本ゆい、オーディションでの“笑わない”演技が起用の決め手に
シルバー・エクスプレス

第39回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門で11月1日、田中未来監督の『シルバー・エクスプレス』が公式上映され、田中監督、主演の岡本ゆい、共演の栗原颯人が出席してのQ&Aセッションが行われた。

カンヌ国際映画祭が、世界の映画学校(大学・専門学校)の学生たちが制作した短編・中編映画を紹介し、優秀な作品を表彰する公式部門【ラ・シネフ】部門で、短編映画『ジンジャー・ボーイ』が第3位に入賞した田中監督の初長編映画。他者に恋愛感情を抱いたことがない智絵里(岡本)は、自分と同じように恋愛感情を抱かない男性・翔也(栗原)と出会い、意気投合するのだが、限りなく似ているふたりには、決定的な違いがあり……。

他者に対して恋愛感情を抱かない“アロマンティック”の女性を主人公に据えた本作だが、田中監督は物語の着想について「最初に企画を考えた時に思っていたのが、自分と違う価値観を持つ他者を理解したり、想像したりするのは、すごく難しいことだけど大切なことだなということで、一番伝えたいテーマとして、そこから出発しました。その中で、恋愛感情を持つ人と持たない人というのは、すごく大きな分断があるような気がして、テーマとして伝えやすい題材だと思って、そういう主人公にしました」とその意図を説明する。

作品をつくるにあたって、田中監督は、様々な交流会に足を運んだり、知人の話を聞いたり、本を読むなどをしたとのことだが「特に、交流会でいろんな方々のお話を聞いた時に思ったのは、セクシャリティというのは定義できるものではなく、本当に個人の問題でしかないんだということでした。同じセクシャリティだったとしても、同じ特徴を持っている方というのは全くいなくて、そういう面でも個人の違いとして、とても興味深いなと思っていました」と振り返り、「個人的には“アセクシャル”とか“アロマンティック”というよりも、みなさんが『これは、ひとりひとり個人の違いなんだ』というふうに思ってもらえる作品として描かせてもらいました」と語る。

岡本は本作で映画初主演を務めたが、脚本を読んでの印象について「作中で、何かが変化するというよりも、ひっそりと心の中が揺れ動く――葛藤や機微みたいなものを大事にして、どう捉えられるか? 挑戦しがいがあるなと思いました」と語る。劇中、智絵里は口数が多くはないが、岡本は「脚本に『…』が多かったんです。最初にオーディションを受ける段階で、その『…』をどういった形で伝えよう? と思った時、目や呼吸、迷っている姿を見せられたらいいなと思って、間や時間も気にせずに、その時の気持ちをぶつけて、さらけ出していました」と明かす。

栗原は、田中監督の以前の短編『ブルー・アンバー』でも、本作と同じ人物である翔也を演じているが、今回の脚本を読み始めて「どうしても翔也目線になってしまった」と語り「本当に切ない物語だなという印象でした。ようやく自分と近しい人間と出会えたと思ったら、やっぱり決定的な違いがあって……そこがものすごく大きかったです」と翔也の気持ちに寄り添いながら読み進めたと語る。

映画の中で、様々な“音”が大きな役割を果たすが、田中監督は「今回、音に関しては智絵里の心理描写や感情みたいなものを表すツールとして使わせていただきました。劇中で電車の音が聞こえるシーンが多々あると思うんですけど、これは智絵里の逃避行というか、自分が浮いているなぁとか、ちょっと居づらいみたいに感じた時に、逃避の意味で設定させていただきました」と明かした。

田中監督によると、オーディションでの岡本の起用の決め手は、“笑わなかった”ことだったという。田中監督は「オーディション時から岡本さんと私の中で、智絵里の解釈に関して結構、一致しているものがありました。オーディションで(候補者に智絵里を演じてもらった際に)全く笑わないというアクションをしていたのは、本当に岡本さんだけで、私自身も20代の智絵里に関しては、笑う子じゃないなと思っていました」と語り、岡本も「脚本を読んで、率直な感想として、智絵里はあんまり気を使って笑うとか、ふざけて笑うとか、そういうことをしなさそうだなと思いました。純粋に、時には冷静に物事を捉えて、まっすぐに進んでいる人間だと思ったので、本当に真面目に生きようということを意識しました」と打ち明けていた。
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