2026.11.03 [イベントレポート]
塚本晋也、監督と主演を兼ねるのは「お金がないからではない」「自分が出たいから」

第39回東京国際映画祭で11月2日、アジア学生映画コンファレンス「塚本晋也マスタークラス」が東京ミッドタウン日比谷ホールで行われ、塚本晋也監督が出席。聞き手は、本映画祭の市山尚三プログラミング・ディレクターが務めた。

今回のマスタークラスには、最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が注目を集める塚本監督が登場。独自の世界観と映像美を追求し続けてきた塚本監督に、作品づくりの裏側や独創的な表現手法を聞き、その創作の秘密に迫る時間となった。

全世界に衝撃を与えた映画『鉄男』について「当時も自主制作でしたが、いまだに自主制作の延長線上にあります」と語る塚本監督。当時はCM制作会社に就職したものの、「やはり映画を作りたい」という思いから、演劇仲間と共に16ミリフィルムで『鉄男』をつくりあげた。「CGもない時代。燃えないゴミの日に拾ってきた鉄クズを主演の田口トモロヲさんに貼り付けて。それを全部コマ撮りで撮っていました」と当時を振り返る塚本監督は、スタッフがひとり、またひとりと抜けていく中、最後はひとりになっても撮影を続け、完成までに約1年を要したという。

そんな労作が「ローマ国際ファンタスティック映画祭」に出品されることとなり、グランプリを受賞。しかし受賞の報せを受けても「自分が鎖国状態だったのでローマと言われてもイメージがつかめず、実感がなかった」という塚本監督。後日、現地の若者たちが熱狂的に『鉄男』コールを発している授賞式のビデオを見て、初めて実感が湧き上がったという。

沢田研二主演のメジャー映画『ヒルコ/妖怪ハンター』を経て、『鉄男II BODY HAMMER』を制作。「ローマにはお金がなくて行けなかった」という思いもあり、「今度は映画祭に参加しよう」と決意。まずはジャンル映画の祭典として名高いフランスのアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭に参加することにしたが、観客がスキーリゾートの客だったからか、上映が始まると観客がゾロゾロと出て行ってしまい、「自分がマゾだったらいいのになというくらいゾッとした」というほろ苦い経験も明かし、会場の笑いを誘った。

そしてその後も、誘われた映画祭にはすべて参加するという意気込みで、1年かけて世界の映画祭に参加。その時は『鉄男』『ヒルコ/妖怪ハンター』『鉄男II BODY HAMMER』の3本を上映してもらうところもあったというが、そこで舞台挨拶やトークセッションを行うことで、海外での塚本ファンを着実に増やしていった。

「そもそも日本ですら大勢の人たちに観てもらえる経験がなかったのに、いろんな国の人たちに映画を観てもらえるなんて、なんて素敵なんだろうと思いました。自分があこがれている監督さんにフラッと会えたりするのもうれしかった」という塚本監督。海外の映画祭に参加することで、自分の創作のモチベーションを高め、かつ海外セールスによって次回作の製作費を補てんすることができるなど、「いいこと尽くしだった」と振り返った。

だがメジャーを経験した後は再びインディペンデントの体制に回帰することとなる。「自分の資質的に、職業監督的にはなれないのかなと思って。自分が遊べる、という言い方になるんですが、遊び道具みたいな初期衝動が生じないと、大勢との仕事は難しい。結局は自分が考えているものの衝動の方が強く感じるからこうなりました」。

以降、数多くの作品を発表してきたが、2014年に大岡昇平原作の『野火』を発表した頃から戦争を題材とした映画を数多く手がけるようになる。50代になり、長年連れ添ったスタッフが解散してしまうような状況に直面するも「ちょうどその頃、日本が戦争に近づいていくような不安があったので、『野火』を意地でもつくらないといけない、という初期衝動があった」という塚本監督。最終的には日本人スタッフ4人でフィリピンに行き、現地のコーディネーターら計6人で撮影を敢行したという。また配給も自主で行うことになり、自身が世話になった全国のミニシアターを泥臭くすべて回るなどしたが「本当に大変だった」と振り返る。

その『野火』のリサーチ過程で見つけたのが、加害者の視点で描かれたノンフィクション書籍であり、これが最新作「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」につながった。全編英語セリフという野心的な同作は、「のびのびとやらせてもらったけど、ビックリするほどの予算。自主映画の人生が3回あってもできないかもしれない」ほどの規模の作品となった。「本当は戦争というテーマを長くやるつもりはなくて。『野火』さえ撮れればよかったんですけど、自分の心配がまだ消えなくて……戦争のことを考えると気持ちが鬱々してくるので、ホラー映画とか、エロ映画とかほかのことを考えようとするんですけど、なかなかそっちの方向に心が動かなくて……」と複雑な心境を吐露した。

学生からの質疑応答では、監督と主演を兼任するスタイルについて「そういうのは昔から得意なんですよ。自分が出演するのは、お金がないからという理由ではなく、自分が出たいから。それと自分の芝居を確認する時ですけど、どうせ編集も自分でやるわけなので。自分の芝居が気に食わなかったら切っちゃえば大丈夫ですからね」と断言し、会場をドッと沸かせる。「ただしこの役は自分じゃないと思ったら、いっさい出ないですよ。すばらしい俳優さんはいっぱいいますから」と付け加えた。

さらに撮影も兼ねることに関して「僕は美術学科出身なので、絵を描くのが好きなんです。映画を作るのも、絵を描くのも同じ脳みそを使うので似ているんですよ。自分でカメラを持てば、後の編集のことも考えて撮れるので時間の節約になりますしね」と付け加えると、さらに編集にも触れ「編集で最も大事にしているのは「リズム」。ポン寄り(アングルを変えずに瞬時に被写体に寄る撮影手法)を使ったり、動きが飛んでしまって不自然に思われることを気にするよりも、リズムの方が大事だと思っている」と自らの映像哲学を語った。
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