2026.11.03 [イベントレポート]
磯村勇斗審査委員長が発表!「2人の呼吸が痛いほどスクリーンから感じられた」エシカル・フィルム賞受賞作は?

第39回東京国際映画祭で11月2日、エシカル・フィルム賞の受賞作品の発表と授賞式、そして選考理由などのトークセッションが行われ、イザベル・シュテーバー監督の『夢から覚めることはそうない』への贈賞が発表された。

エシカル・フィルム賞は、映画を通して、環境、貧困、差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的として、住友商事の協力により2023年に新設された。第3回となる今年も、東京国際映画祭にエントリーされた数多くの新作の中から、「人や社会、環境を思いやる考え方、行動」というエシカルの理念に照らし合わせ、アニメーション部門から選出された『アマデオともうひとつの新世界』、ウィメンズ・エンパワーメント部門からの『夢から覚めることはそうない』、ワールド・フォーカス部門からの『時と潮』の 3 作品がノミネートされた。

受賞したのは、『夢から覚めることはそうない』。本作は、2021年末、ロシア軍によるウクライナ侵攻開始前後の極限状態のキーウを舞台に、尊厳とは何か、男らしさとは何かを問い、戦争が与える個人への影響を繊細かつリアルに描いた作品。戦火を避け、国外への避難を試みるものの、書類上の性別が原因で出国が認められないトランス男性のオレグと、共に国に留まった恋人のオーリャのクィアカップルが、爆撃が迫る中、アイデンティティを守るか、命を取るかの選択を迫られる姿がリアルに映し出される。

審査は、映画界を代表する審査委員長と、映画祭事務局プロモーショングループのインターンシップ「学生応援団」から選ばれた3人の大学生によって行われた。

今年の審査委員長は、俳優の磯村勇斗。「ジャンルの異なる3作品から選ぶ難しい審査となりましたが、エシカルの理念にフォーカスを当て、学生の皆さんと一生懸命選考させていただきました。選んだのは、現代だからこそ、多様性の今だからこそ、多くの人に見ていただき、皆さんの中に考える時間を作っていただける作品。そんなふうに受け取ってもらえると嬉しいです」と選考ポイントを語り、受賞作『夢から覚めることはそうない』の選評を以下のように伝えた。

「ウクライナとロシアの戦争、ジェンダーというテーマ、ウクライナで生活をするロシア人への差別、言語の問題など、エシカルの理念とする要素が本当に広く深く詰まった作品。この戦争の中に自分がいたら、自分の生き方を守れるのか? 存在意義を深く考えさせられたところなどを高く評価しました。なにより、震えや揺れなど本来なら伝わるはずのない、戦争中のウクライナで生きる2人の呼吸が痛いほどスクリーンから感じられたこと。素晴らしいと思いました」。

映画祭への参加はならなかったものの、ビデオメッセージで登場したイザベル・シュテーバー監督。

「エシカル・フィルム賞をお贈りいただき、本当にありがとうございます。スタッフ、キャスト、そして映画も感謝しています。映画に出てくるクィアとは、LGBTQ+の方々だけでなく、規範化されていないことすべてを指す言葉です。もし規範化された中で生きなければならないとしたら、私たちは息もできなくなることでしょう。しかし、今、これは独裁政権下で起きつつあること。規範化されれば、誰もがある一定の基準に合わせなくてはならず、人々に選択肢はありません。ウクライナの人々は、息をし続けるために戦っています。自由を得るために、自由を諦めるのかと問いながら。そんなことがあり得るのでしょうか? この賞の授与に心から感謝申し上げます。素敵な一日をお過ごしください」と教鞭を取る映画学校の教室から受賞コメントを送ってくれた。

大学生審査委員それぞれの選評は以下のとおり。

中央大学4年の合島誠太郎は、選定理由を「この映画を見た後に、トランスジェンダーの方々の戦争中における苦難、国家がどれくらい個人の在り方に介入できるのかなど、友人と議論できるところにアクセスできる作品だと思い、選ばせていただきました」。

武蔵野美術大学3年の兼則くるみは、「エシカルとはなんだろうと悩んでいたときに、磯村さんが「家族や友人など身近な人に勧めるならどんな作品がいいかと考えてみては」と基準を示してくださいました。最近、戦争を扱った作品が増えている印象ですが、この作品には、戦争だけでなく、一人の人間の生き方、どう社会と接続して、自分のアイデンティティを認め、受け入れていくかが描かれ、友人や家族の顔を思い浮かべることができた作品でした」。

法政大学3年の高橋詩織は、「この映画を通して、新しい視点や価値観に気づくことができ、これまでと異なる側面から戦争を見ることができて、非常に学びになりました」。

東京国際映画祭フェスティバルディレクターの久松猛朗は、この賞に関してこう述べる。
「映画は作品を通して、我々をいろいろな世界や価値観と結んでくれます。そしてときに人々の意識を変え、社会を動かす力も持っています。エシカル・フィルム賞は、そうした映画の力に光を当て、作品を通して社会の在り方を考えさせ、生き方を問う意義のある賞。東京国際映画祭にとっても、重要なプログラムの一つと考えています。本日の授賞作品が、皆さんと一緒に問題やテーマを考えるきっかけとなればと思っております」。

受賞作品『夢から覚めることはそうない』は11月4日、午後4時5分からシネスイッチ銀座にて上映される。
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