2026.11.03 [インタビュー]
「寛容な会社のおかげで、10年間コンスタントに自主映画を撮っています」アジアの未来部門『Saravah』公式インタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー2026年10月31日
アジアの未来部門『Saravah』 →作品詳細
Saravah

©2026 TIFF

鯨岡弘識(監督/脚本/撮影/編集)

 

映画祭らしい掘り出し物。映画祭でこんな映画に会いたかった、とすら思わせてくれた『Saravah』。売れっ子覆面脚本家の正体をめぐる謎解きを軸にしつつ、主人公たちそれぞれが持つ学生時代の心のささくれをじわじわひっぺがす物語は、じつに独創的かつ娯楽性に富んでいる。監督・脚本・撮影・編集を一手に担った鯨岡弘識監督に、満席となった本映画祭の最終上映後に話をうかがった。

 

 

──最終上映が満席だったそうで。おめでとうございます。

 

鯨岡弘識監督(以下、鯨岡監督):正直いって驚きました。お披露目となった初回の上映も8割くらい客席が埋まっていたので、自主映画を作る者としては、これが映画祭の力だと感動しました。

 

──ダントツで面白いと思いましたので、映画の力ですよ。この作品は自主制作ですが、そもそも監督は映像制作会社にお勤めなんですよね?

 

鯨岡監督:日本テレビグループの映像制作会社アックスオンの社員として10年勤めています。

 

──本作の主人公たちのように、大学時代から映画制作を目指してらっしゃった?

 

鯨岡監督:大学は芸術系ではなく法学部だったんですが、インカレの映画サークルに所属して、4年次くらいには文学部の映画の授業を選択していました。そのころは、かつてあった映画撮影所システムにあこがれていたんですよ。

 

──それはもう存在しないシステム…。

 

鯨岡監督:そうなんです。助監督で現場を勉強して監督になっていく、あのシステムは私が就職を考える時期にはもうありませんでした。とすると、どこかに所属して助監督から監督になる道は、映像制作会社しかなかったんですよね。それでテレビ局ではなく、映像制作会社をいくつか受け、採用されたのがアックスオンでした。就職してすぐ「ドラマや映画をやりたい」ということを言っていたので、入社の翌月から現場に入らせていただきました。

 

──撮影所の古式ゆかしいシステムがない今、制作会社でそれが継承されているのは目の付け所が鋭い。でも、制作会社ですと日々そちらの仕事に追われて、自主制作の映画は着手が難しいのでは?

 

鯨岡監督:2016年に入社したので10年、じつはコンスタントに自主映画を撮っています。というのも、ひとつのドラマの仕事が終わると1か月くらいのお休みがもらえるので、その時間を使って作りたい短編を作って、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアに出品したり、継続的に制作を続けています。この作品は、その10年の間に出会った仲間といっしょに、一区切りとして長編を手掛けてみよう、というところから始まりました。
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──がっちりと商業作品を本職でやられて、自主制作も並行する方はなかなかいそうでいないものです。そこには所属している会社の理解がないと。

 

鯨岡監督:弊社はじつは意外と寛容な会社でして。以前は、テレビ局子会社の制作会社といえば、その局の映像制作に限られていましたが、今は違います。地上波、BSなど他局の番組はもちろん、映画や配信オリジナル作品など幅広く手掛けていることもあって、弊社に限らずどこの映像制作会社さんも可能性が広がっているなと実感しています。また、私の上長も「商業作品をやりながら、自主もやって、なんでもできるようになれ」「バジェットに関係なく映画を撮れるようになれ」と背中を押してくれるんですよ。かなり自由度が高い環境で仕事していると思います。

 

──その点でいうと、日テレグループにはHuluがあったり、御社ではおそらくNetflixなどのオリジナルコンテンツ制作も関わられているから、自主制作を並行させている監督としては作品のアウトプットでは困ることがなさそうな…邪推ですが。

 

鯨岡監督:その特権はありませんが、本当におっしゃるとおりで、映像をアウトプットするプラットフォームが増えたことによって、制作会社としては全くボーダーなしでいろいろ手掛けているために、関係性がありますね。映像業界は群雄割拠、戦国時代です。幸い弊社は比較的規模が大きいので、あらゆるジャンル、作品を手掛けられるチャンスがあります。たとえば、今回の映画祭でオープニング作品に選ばれた『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』の企画プロデュースは私の同僚ですし。
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──そうでした、あれもアックスオン製作。

 

鯨岡監督:そうなんです。そういった大きな作品にも関わる会社で勉強させていただきつつ、自主制作も着手できるのはありがたい環境だと思っています。

 

──さて、2026年はじめに脚本を書き始めて、同年秋の本映画祭に出品とはすごいスピード感でしたね。

 

鯨岡監督:撮影は7日間でした。サクラ役の徳永さんが会社員なので、土日と彼の勤務後の時間しか使えないということもありまして。

 

──土日でロケ撮影だと、人払いとかなかなか難しいことが。

 

鯨岡監督:この作品は東京都心以外では下仁田など群馬県でロケをしていますが、ご協力いただいたおかげで全くストレスなく撮影できました。

 

──物語のテーマは「10年ぶりの再会」。監督のキャリア10年を想起させるアイデアですが、覆面脚本家を中心としたストーリーの骨子はどこから着想を得たんでしょう。

 

鯨岡監督:この10年、映像に携わってきたなかでの経験です。脚本家にまつわるネームバリューや匿名性など、業界で重視されていることに興味を持ったのがきっかけです。映像の仕事をするなかで、いろいろな方との出会いがありましたし、各局によって制作現場の文化の違いを感じることがあったり、変な慣習があったりと、ほかのお仕事ではなかなか得がたい御縁をいただいたと感じています。それら全てが良くも悪くも尖っているんですよね。そういった人たちの面白さを描く作品にしたいと思い書き始めました。また、素性を明かさない脚本家の設定は、私の知人に覆面脚本家が実際にいたことから生まれたアイデアです。「もし本人が作品を書いていなかったら」というタラレバを広げていったとき、創作欲求が強い人の集まりである業界で覆面作家であることがこじれていったらどうなるんだろう、というように発想を広げていきました。

 

──その発想は、業界でプロのお仕事をされている監督ならではだと思います。それとともに、リクのようにこじれた人との出会いもこの業界ならではですね。リク、サクラ、ハトという三者三様のキャラクターが主人公ですが、これまで会ったどのような人がモデルになっているんでしょう。

 

鯨岡監督:リクは男性性が強く、ホモソーシャルな環境に違和感なく属してこられたキャラクター。男性だと社会人以前、学生時代などでホモソーシャルな環境に適応しないと、と演じてしまう局面があると思うんです。リクがそういう違和感がなかった人に対して、嫌悪感すら感じているのがサクラです。私の中にもリク、サクラはいますし、リクのような男性像のモデルは何人か思い浮かべました。その一方、ハトは明確にモデルがいます。

 

 

↓↓↓以下、ネタバレあり↓↓↓

 

──ここからはネタバレになりますが、ハトは男性性に嫌悪感を抱く女性ですよね。

 

鯨岡監督:そうです。ハトにかなり近い感覚を持っている知人がいたので、キャラクターに反映しています。

 

──ここでさらにうかがいたいことが。本作は気まずい再会劇であるとともに、裏テーマとしてジェンダーロールについてアップデートできたか否かが描かれていますよね。

 

鯨岡監督:そうです。この作品を思いつく直前、「ぼくたちん家」(2025年放送。及川光博主演)というドラマの製作に携わっていまして…。

 

──やはり。「ぼくたちん家」がきっかけになったんじゃないかと思っておりまして。

 

鯨岡監督:強く影響しています。私がチーフディレクターとして初めて手掛けたドラマであるとともに、日本テレビの白川大介さんがインクルーシブプロデューサーとして関わられている作品で、彼がいたからこそ実現したドラマだと思っています。いわゆるホモソーシャルの感覚や、そこに確実にあるマイクロアグレッションの問題だったり、私自身がそれまで考えていたことの答え合わせになったんですよね。それを経て、それらの問題でにじんでいる部分をうまく混ぜた映画が撮れないか、と思って書き始めたんですよ。なにせ本当におもしろい作品だったので、僕自身の創作意欲がかきたてられちゃいました。

 

──とてもいいタイミングで、いい作品に関わりましたね。

 

鯨岡監督:ええ。「ぼくたちん家」は松本優紀さん(2023年度日テレシナリオライターコンテスト審査員特別賞受賞)が、10エピソード通しで書くという心意気を持った方なんですが、その仕事ぶりに触発され「今までスキマ時間で短編を撮ってきたけど、やはり長編を撮りたい」と思ったのも大きかったですね。作品の内容もさることながら、スタッフ・キャストがみんな仲良くお互いを思いやることができる現場になっていたんです。それが本作の現場にも活かせたと思います。

 

──これもネタバレになりますが、大学時代にハトとの恋愛がうまくいかず、ずっとリクを思い続けているサクラのセクシュアリティは、クィアということでいいんでしょうか?

 

鯨岡監督:ゲイではなく、アセクシュアル、アロマンティックに近い認識です。この作品のなかでは全く言及していませんが、サクラ自身はそこを認識していて、リクと一緒にいるのが純粋に居心地がいい、という設定にしています。リクはそこに気づいておらず、むしろ無神経なくらいなところがありますが、それすら居心地がいい、という関係性なんです。

 

──ハトとの接点を失った10年がそこに集約されていて、しかもことさらに大きく扱わないというのも素晴らしかったです。この脚本だったら、商業映画化もできるのではと思います。

 

鯨岡監督:がんばりたいですね(笑)。ありがたいことに、映画祭での上映をきっかけにいくつかお話をいただいたので、まずはこの作品を一般の劇場で来年公開を目指して動こうと思っています。

 

インタビュー/構成:よしひろまさみち(日本映画ペンクラブ)
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