2026.10.31 [イベントレポート]
川喜多かしこ賞に秦早穗子氏 『勝手にしやがれ』『太陽がいっぱい』など買い付け、多くの名作を日本に紹介

第39回東京国際映画祭で10月31日、女性による女性のための顕彰事業として新設された「川喜多かしこ映画文化賞」の贈賞式が行われ、『勝手にしやがれ』『太陽がいっぱい』など数々の名作の買い付けに携わり、映画評論家としても活躍してきた秦早穗子(はた・さほこ)氏が第1回受賞者として来場した。

同賞は、戦前・戦後にわたり欧州の名作を数多く日本に紹介し、国立映画アーカイブの前身である東京国立近代美術館フィルムセンターの立ち上げに尽力するなど、「マダム・カワキタ」として東西映画文化の架け橋となった川喜多かしこ氏の功績を称えるために設立されたもので、国内外の映画文化振興に成果をあげた女性に贈呈される。

第1回受賞者の秦氏は、1931年に東京で生まれ、1957年に雑誌社の特派員として渡仏。帰国後、映画輸入業の「新外映」に入社し、買い付け担当として再びフランスへと渡り、ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』、ルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』など、数々のフランス映画の買い付けを行った。その後もジャーナリストとして多くの作品を日本に紹介し、ファッション評論家としても活躍してきた。

壇上で賞状、花束、記念品を贈呈された秦氏は、第1回受賞者に選ばれたと聞いて「最初はとんでもないことだと思って、お断りしようと思いました」と告白。「川喜多かしこ夫人というのは、私たちにとって、遠い“レジェンド”の人。もっと率直に言いますと、私も図らずも映画の選択(買い付け)をすることがございまして、小さい会社でしたが、競争相手になって(川喜多と)戦ったこともあります。(受賞など)もってのほかで、筋違いだと思いました」と語る。

秦氏は帰国後、フランス映画の輸入を行う「新外映」に入社したが「時代が変わってきて、その変わり目の時期に、私のような平社員が、映画の選択(買い付け)をするという時代がくるわけです。それから、映画の買い付けをなさる女の人もいっぱい出てきました」と時代の変化を振り返る。

その上で「いまの時代に、女の人だけの賞なんておかしいじゃないかという、勢いのいい女の人たちもいるかもしれませんが、歴史を考えれば、そんなに簡単な歴史ではなかったと私は思っております。私が働き始めた50年代、日本はもちろん、フランスでもイタリアでも、女の人が映画の仕事をするなんて「みっともない」とか「おかしいね」としょっちゅう言われました。相当、屈辱的な言葉(を言われたことも)もありました。映画というのは、芸術だけだと思っているなら、それは間違いで、娯楽性もあるし、いろんなものがある。その中で、女の人がどう戦っていくか? ということは、そう簡単なことではありません」と女性の映画関係者たちの歩みと努力が歴史を動かしてきたことの意義と重みを口にする。

そして「このごろ、「(映画に携わる仕事は)格好がいい仕事だね」と女の人たちがおっしゃるんですけれども、果たしてそうかな? と私は思います」と語り、自らがかつて川喜多氏を取材した時のエピソードを明かす。「取材が終わった時に、彼女がそっと私にささやいたんです。「この仕事はなかなか大変だし、いろいろあるけれど、でも、女の人としても結構、大変よね」と。それは、実にしみじみとした本音だったと思います。それは意味が深かったと思うし、私もその頃はまだ若かったけれども、だんだん年を取ってくるうちに、その意味の深さや、いろんな意味の愛情を感じるようになりました。そして「ああ、この言葉は、やはり本当の言葉だから、今日、ここに参上して、直にお伝えしたい」という思いが、私の心の中にわき上がったわけです」と、当初の受賞を辞退するという思いを翻意した理由を明かした。

さらに秦氏は「私は映画というのは、勝手に“道草学校”と言っているんですけど、ブラブラしながら、あっち行ったり、こっち行ったりしていると、政治の問題もあれば、社会の問題、人種の問題もあって、私はそうやって、怠け者だけど、それが面白くて、それが勉強にもなって細々とやってきて、今日まできました」と語る。「それは、男も女も超えた、私たち人間のひとつの生き方であると思います。これからの時代、右翼か左翼かと分裂していき、厳しい世界の状況になっていますが、川喜多かしこ映画文化賞というものは、その意味においても意義があることのように思います」と語り、会場は温かい拍手に包まれた。

同賞を主催する「川喜多記念映画文化財団」の武田和代表理事は「男女平等と言われ、しかも日本は現在、総理大臣も女性、首都・東京の知事も女性であるにもかかわらず、あいかわらず国際的には、男女同権とは程遠いという評価が残念ながらされております。映画の世界でも、男女平等はなかなか難しい問題になっていて、もっともっと女性映画人を応援することが、戦前から活躍する女性映画人・川喜多かしこが設立した川喜多財団の使命であるというふうに考えております」と語り「産声をあげたばかりの新しい賞ではありますけれども、これからも長期にわたり、みなさま方の力添えをいただいて、川喜多かしこが目指した、日本と海外の映画文化振興の礎となるために、長くこの賞を続けていくことを、ここにお約束いたします」と同賞設立への思いを語った。

第39回東京国際映画祭は11月4日まで開催。
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