2026.10.31 [インタビュー]
「この映画で描かれている話は、今の世界の状況と強く結びついている」コンペティション部門 『夜明け前の赤』公式インタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー2026年10月27日
コンペティション部門『夜明け前の赤』→作品詳細
『夜明け前の赤』
ガリン・ヌグロホ(脚本/監督・左)、ニコラス・サプットゥラ(プロデューサー/俳優・中央)、ナグラ・パクサデウォ(俳優・右)

©2026 TIFF

 

 

1946年、インドネシアが独立を宣言した直後、オランダとインドネシアにルーツを持つ地質学者がスマトラを横断して、臨時首都まで測量資料を届ける命を受ける。彼の旅にはインド系の元兵士、中国系の看護師、歌手までが加わり、危険に満ちた過酷な旅となる。
インドネシア映画を代表するガリン・ヌグロホが力強い演出で、世界が現在も同じ困難を抱えていることを明らかにする。人気俳優のニコラス・サプットゥラが製作として参加しているのも話題だ。

 

 

──この作品はどういうかたちでスタートしたのですか?

 

ガリン・ヌグロホ監督(以下、ヌグロホ監督):プロデューサーも兼ねているニコラス・サプットゥラから、1946年という時代についてのアイデアをもらいました。私自身も1946年頃の歴史を調べるのが好きでした。この時代は、歴史のなかで語られたり書かれたりすることが滅多にない「社会革命」の時代です。この1946年の社会革命を学び、深く思いを巡らせることができるように映画化する必要がある。そう考え、ニコラスのアイデアを受け入れることにしました。
『夜明け前の赤』

 

──サプットゥラさんは、なぜこれが念願だったのですか? 企画を思いつかれた理由は何ですか?

 

ニコラス・サプットゥラ(以下、サプットゥラ):数年前、私とヌグロホ監督はある歴史映画を制作しました。私は俳優として、彼はもちろん映画監督として参加しました。その映画は、インドネシアの映画史における4つの時代を、政治的・社会的な背景とともに描いたものでした。その時ヌグロホ監督は、1920年代、40年代の独立期、60年代、80年代、そして現代を描きました。
ただそのときにも、インドネシアの歴史において語られてこなかった時代がひとつありました。それは革命の最中にあった独立直後の時代です。そして関心を持ったのは、単に当時の情勢そのものだけでなく、「一般の人々、つまり民間人に何が起きていたのか」という点でした。
『夜明け前の赤』

 

──そこから企画が広がったのですね。

 

サプットゥラ:はい。私たちはすでに独立を宣言したものの、その後非常に多くの出来事が起こりました。オランダが連合国とともに再び戻ろうとし、インドネシアは非常に多くの社会・政治的紛争を経験しました。この時代については滅多に語られることがありません。しかし、ヌグロホ監督であれば、歴史を読み込み、深く掘り下げて語ることができると確信していたので、彼に声をかけました。

 

──多様な作品を作られている監督ですが、この企画のどこに魅力を感じられたのですか?

 

ヌグロホ監督:この映画のテーマや描かれている物語が、今の状況ととても強く結びついているからです。インドネシアにおいても、世界においても同様です。資源、土地、宗教は最近でも問題になっています。それらは人々を豊かにするどころか、残忍な暴力を生み出してしまいます。私たちが繁栄や良い暮らしを夢見ても、過渡期においては人道主義的な指導者や人間味のあるリーダーが存在しないため、現実には多くの悲劇が起きてしまうのです。私たちはいつの時代も過渡期においてカオス、混乱状態に陥ります。利権の奪い合いが多すぎるからです。

 

──今この作品を生み出すことの意味は、ここで投げかけられている問題が今も続いているからということですね?

 

ヌグロホ監督:はい。劇中の出来事はすべて実話からインスピレーションを得ています。そしてこの旅は、登場人物それぞれのアイデンティティを巡る旅を象徴し、示しています。トラックに乗って移動する物理的な旅は、実際には自分自身を探求する旅でもあるのです。
『夜明け前の赤』

 

──ニコラスさんは製作にも関わっています。これが初めてのプロデュース作品ですか?

 

サプットゥラ:以前にもいくつか映画をプロデュースしたことはありますが、普段はパートナーがいました。今回は私ひとりでプロデューサーを務めました。私はいつも、プロデューサーになることや俳優になることを「帽子をかぶるようなもの」だとイメージしています。ですから、俳優としての出番のときはプロデューサーの帽子を脱ぎ、俳優の帽子をかぶります。主にプロデューサーとして働くのは撮影前、準備やディスカッションの段階です。しかし撮影に入れば、私は俳優として働き、監督に尽くします。

 

──この作品に懸けた思いや意味というのを、監督に教えていただきたいのですが。

 

ヌグロホ監督:映画を作るには、個人的な主張“パーソナル・ステートメント”がなくてはいけません。何を言いたいのかという個人のステートメントが不可欠です。ふたつ目は、魂や精神、身体を突き動かし、私たちが愛着を持てるような、魂(ソウル)を揺さぶるアイデアが常にあることです。3つ目は、自分がこれまでに作ったことのない映画であること。テーマなども含めてです。ですから映画を作るなら、その3つが揃っていなければなりません。

 

──この作品は全てに当てはまるわけですね。

 

ヌグロホ監督:ええ、3つともです。1946年という時代や状況は描いたことがありませんでしたし、ここには社会政治的なステートメントがあり、社会政治について言いたいことが込められています。そして、歴史を描いたロードムービーはこれまでに撮ったことがありませんでした。

 

──ナグラ・パクサデウォさんにとっての監督のイメージを教えてください。

 

ナグラ・パクサデウォ:現場では、もちろん非常に尊敬されていますし、非常にクリエイティブです。巨匠(マエストロ)でいらっしゃるので、時には怖くなることもあります。なぜなら、創造性が絶え間なく成長し、広がり続けていくからです。もしランキングをつけることが許されるなら、もちろん間違いなく一番高いランクになります。
『夜明け前の赤』

 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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