2026.10.29 [イベントレポート]
完成まで10年、映画と美術の境界を超えた壮大なアニメーション『魔法の星図』 三上寛の楽曲使用の理由は「戦後の日本文化への憧れ」

第39回東京国際映画祭のコンペティション部門出品作のシンガポール映画『魔法の星図』が10月29日に上映され、本作の監督、脚本、プロデューサーを務めた中国出身のアーティスト、スン・シュンによるQ&Aが開催された。

舞台は、炭鉱によって発展した架空の帝国。そこに現れた魔術師が、専制支配のもとで人々が失った記憶を呼び起こしていく。逮捕された魔術師は、刑務所で孤児の少年と知り合い、一冊の不思議な書物を渡す。少年はその書物を手がかりに、帝国の支配のもとに隠された記憶の中に踏み込んでゆくという物語。

卓越した芸術的技術とスタイルで、現実と幻想、歴史と神話が錯綜する少年の旅が壮大なスケールで描かれる本作、聞き手を務めた、プログラミングディレクターの市山尚三氏は、「選ぶ時は全く気づかなかったのですが、後から、東京国際映画祭史上初めてアニメーションがコンペティションに入ったと知りました。私は見ている時はアニメーションだからということではなく、映像の凄さに驚いたのです」と紹介する。

完成までに10年を費やしたという本作製作の意図について、「16歳の時から芸術の世界に入り、アートの世界に対しても何らかの訴求したかった。特に書を取り入れることで、映画にとって新たな表現の手法を取り入れ、文化的蓄積ができればと考え、私のこれまでの芸術家としての人生の集大成として作った。アニメであるけれどアニメではない、文化の力そのものをアピールしたいと思った」と、とりわけ東洋の芸術において重要な役割をはたす書に着目し、中国の芸術史を研究しながら、10年間も書を練習したという。

劇中では中華圏で著名な音楽家の楽曲が用いられているほか、日本のシンガーソングライター三上寛の楽曲も使われている。「第2次世界大戦後の時代は、日本にとって芸術的に非常に輝かしい時期。私はこの戦後の日本の映画や美術、すべてのものが大好きで、ある種の憧れを抱いています。この作品は私の人生において非常に重要な作品ですから、挿入歌をお願いしたのです」と明かす。

圧倒的な作画で展開するアニメーション制作については、「ゼロからスタートして一生懸命考えました。動作のデザインが決まってから、筆を使って墨で1枚1枚描き、それを木版画にします。描いた絵をまた版木に転写しなければなりません。版木は材質によって木肌が均一ではない時があるので、転写する前にワックスを1回かけ、木目などを均等にした上で、描いた絵を1枚1枚転写していくのです。そこにどれだけの時間がかかるか想像できるかと思います。その転写した絵を今度は1枚1枚コンピュータに取り込んで、処理をしていくという方法です。アニメーション制作の経験がある人は、一目瞭然で手描きであると分かると思います。芸術家としての人生をかけた作品ですから、絶対にこのやり方をやめてはいけないと取り組みました」と過程を説明し、そのこだわりに自信を見せる。

製作費については、本作で使用した絵画を売って資金を集めたという。「映画の後半は絵巻の手法も取り入れており、研究にも時間がかかります。このようなやり方に投資する人はいません。まずは、オーストラリアのギャラリーから先行である程度の資金をもらい、その後は自分の絵を売ってお金を作ったのです。10年かけて作り終え、私はもう本当に一文無しという状態です」と告白した。

第39回東京国際映画祭は11月4日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
新着ニュース
2026.10.29 [更新/お知らせ]