2026.10.19 [インタビュー]
「日常の、見落としてしまいそうな描写に興味を惹かれる」コンペティション部門『過怠』山本英監督公式インタビュー

過怠 山本監督

©2026 TIFF

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新宿ホスト殺人未遂事件に題を取った『熱のあとに』(23)は、第28回釜山国際映画祭でワールドプレミア上映され、国内外で評価を受けた。
その山本 英監督が今回挑んだのは、谷村志穂の同名小説の映画化である。
受精卵取り違いの事実を知らないまま、健やかに成長した二人の女子大学生が主人公。だがある日、彼女たちが偶然に出会ってしまったことで、それぞれの思いや自らの過去と向き合っていくことになる。
監督がインタビューで語ったように、その人が生きた形跡を原作からも汲み取り、それを映像化したことで、より印象深い作品に仕上がっている。
 
 
── この作品を映画化しようと思ったのは、谷村志穂さんの原作を読んで感銘を受けられたのがきっかけだったのでしょうか?
 
山本 英監督(以下、山本監督):きっかけ自体は、プロデューサーからのオファーではあったのですが、まず企画書を読ませてもらい、谷村志穂先生の原作「過怠」を読みました。
テーマとしては、受精卵の取り違えによって運命が入れ替わってしまう女性二人の話ではあるのですが、そういったことのほかに、日常のなんと言えばいいか、その人の生きた形跡みたいなものの描写がすごく素敵で。
こういった見落としてしまいそうな部分を、映画にしていきたいと感じたところが、自分の中ではすごく大きかったと思っています。
 
── その形跡を汲み取れたのですね。
 
山本監督:原作から汲み取らせていただいた部分もありますし、映画を作っていくなかで、自分でも日常で見落としてしまいそうなものを、映画の中にエッセンスとして入れていけたらと考えながら構築していきました。
過怠 山本監督
 
── 韓国の方の役が唐田えりかさんで、日本人として育った菜々子が知英さん。このキャスティングは、結果、本当に意味があるのですが、難しいキャスティングだったと思います。映画化するときから考えていましたか?
 
山本監督:やはり、僕も最初は設定が逆の方がいろんなリスクが減るとは思ったんです。
唐田さんが日本人の役で、知英さんが韓国人役という方が、絶対的にリスクは減ると思ったのですが、根本的な自分たちのルーツということを考えたときに、唐田さんは日本で、知英さんは韓国です。この原作に誠実に向き合って撮るのであれば、そのルーツに従って設定をした方がいいのではないかと考えました。ネイティブではない言語を扱う課題はすごくあったのですが、チャレンジしてみたいと思い現在の設定で撮影することにしました。
 
── オーディションとかはあったのでしょうか?
 
山本監督:そうですね。主演のお二人は決まっていたので、そのほかの出演者の皆さんは、僕の方から提案させてもらったり。子役の子どもたちはオーディションで決めました。
 
── 白川和子さんが出演しています。最後の方で再会するシーンがいいですね。倒れただけじゃなくプレゼントを渡せるという風に。クレジットを見て「あ、あの女性が白川さんだったんだ」と気付きました。
 
山本監督:あ、そうなんです。柳町光男監督の映画『さらば愛しき大地』(82)で、白川さんを拝見していたので、出演が決まった時はすごく緊張しました(笑)。
 
── 原作は医療ミス等の方に重きが置かれていると思います。でも映画は、それよりも若い二人がアイデンティティを模索していき、未来が決して暗いものではないように思いましたが、そのあたりの演出はどうなのでしょうか?
 
山本監督:『過怠』というそのタイトルがそうですけど、過ぎるという漢字が入っていますよね。原作も過去が関係してくる物語です。映画では、入れ替わっていることを知った二人のその先を、何かしらの形で提示したいと思っていました。
もちろん、医療ミスの部分もすごく大切な部分ではあるのですが、映画としての最後の到達点は、それも踏まえた上で、彼女たちがこれから何をどう選択していくのか、ということを想像してもらえるようなラストにしたいと思い、今回の終わり方になっています。
 
── 映画自体が物語の進行を急ぐという感じではなく、例えば、唐田さんが散歩の途中で大道芸に見とれていたり、シーンの行間と言いますか余白と言いますか、それが印象的です。
全体的にそうしたものを大切にされている感じがしました。それは、監督自身が映画に向き合う姿勢なのでしょうか? 

 
山本監督:様々な種類の映画を撮ろうとは思っているのですが、撮っていて一番自分にしっくりくる瞬間は、歩いている人をただ撮るとか、行為の積み重ねで、そういったところに映画の本質があるような気がしています。
ですので、唐田さんパートは得意なところだと思ってはいるのですが、そう言いつつも、物語もやっぱり好きで。
二人の話の流れとしては、中盤からどうしても知英さん(菜々子)のパートの情報開示が多くなってくる。それは、物語として逃れられないので、であれば唐田さんのパートは、情報開示ではない、身体性を見せていけるパートにしたらいいのではと思いました。全体を見たときに、映画の構成としてはきっと良いバランスになるんじゃないかと考え組み立てていきました。
 
── 結局、菜々子の方が先に事情を知るわけですし。
 
山本監督:双方が情報の開示をしていくとなると、多分、ガチガチになってしまうというか、情報を受け取るだけの映画になる可能性もあるかなと。
それは谷村先生の原作から受け取った自分の感覚とは違うものになってしまう。また情報を受け取らない瞬間があれば、観てくださる方も情報を整理する時間ができるのかなと思いました。そういった意味で、あのような構造を考えてみました。
過怠 山本監督
 
── 事件ものだと、展開中心に追う必要がある。新宿ホスト殺人未遂事件を題材に監督した『熱のあとに』(23)は、どのような手法でしたか?
 
山本監督:『熱のあとに』のときは、全体的な構造としては違う形だったと思っています。
今回と違う点は、『熱のあとに』では、どちらかというと言葉を重点的に撮りたいと思っていました。
それは、沙苗役を演じた橋本愛さんから発せられる言葉をすごく撮りたい、脚本に書かれてあるテキストを撮りたいという気持ちがものすごく強かったからです。あのときは、どちらかというと言葉をどうすれば撮れるのか、映像の中にどう組み入れられるのか、映像にどう立ち現れるのかを考えながら撮っていました。
 
── 『熱のあとに』は、釜山国際映画祭のニューカレンツ部門でのワールドプレミアでしたね。TIFFオフィシャルが聞くのも何なのですが、釜山国際映画祭はどうでしたか?
 
山本監督:大きいというイメージがありました。街全体が釜山国際映画祭のムードに染まっていて。いろんな場所で上映をしていました。商業施設の中のシネコンで上映していたり、ホールで上映をしていたり、どこを歩いても釜山国際映画祭が目に付くという感じでした。
 
── 今回、韓国のシーンがありますが、現地のスタッフの方と一緒に仕事をしてどんな感じでした? 
 
山本監督:カメラマンの米倉伸さん、照明の後閑健太さん、撮影助手の大西くんは日本から一緒に行って、録音のスタッフ、美術、スタイリスト、ヘアメイクの方は韓国の方たちにお願いしました。日本よりもキャストとスタッフの境界線がいい意味でルーズな感じがあり、イレギュラーな撮影だったのかもしれませんが、それが僕にとってはすごく心地よかったです。
衣装合わせとかも、プロデューサーの部屋にみんなで集まって決めたり(笑)。
撮影と、自分たちの生活の境界線がちょっと曖昧で、それがいい感じでした。またお昼ご飯をしっかり食べるのが決まりになっていまして、1時間は必ず取ってみんなでお店に行って食べる。それも、自分にとっては大切な時間でした。
 
── 原作物ではなく、ご自身でシナリオを書くとき、何に一番こだわりますか?
 
山本監督:例えば、谷村さんの原作を読ませていただいたときにも、物語とは関係ないけれどとても大切な描写がたくさんあって、自分はそういうところに惹かれるのだろうし、そういうところを脚本、映画にもどんどん組み込んでいきたいと思っています。
 
── 先ほど、柳町光男監督の名前が出ましたけれど。
 
山本監督:素晴らしいですよね。本当にもう溜息が出るほど美しいです。
 
── ああいう感じでご自身も撮りたいと思ってらっしゃる?
 
山本監督:柳町さんの映画を観ていると、映っている方々の活力がものすごくて、あのようにどうやったら映像の中に収められるのかは、自分の中でもまだまだ勉強していきたいなと思っています。
 
── いろんなジャンルの映画がある中で、こういうジャンルを撮りたいという願望はありますか?
 
山本監督:特にはないのですが、でも、まだホラーはやったことないので、ホラーはすごく気になります。演出的な部分がとても重要なジャンルだと感じています。
 
── 東京藝大大学院で山本監督が師事した黒沢清監督も、やっぱりホラーを撮るのがすごくお上手ですし(笑)。
 
山本監督:確かにそうですね(笑)。僕もやはり、撮ってみたいです。
過怠 山本監督
 
 

2026/10/1 スパイラルホール インタビュー/構成:小出幸子
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