2026.10.16 [インタビュー]
「水木しげるさんの漫画が大好きだから、妖怪や化物が毎回出てきてしまうんです」コンペティション部門『妖怪、化物をひろう』池田暁監督公式インタビュー

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貧しい団子売りのタエ(余貴美子)は、ある日、奇妙な赤ん坊を拾う。権力者たち(トゥオ・ゾンホアの2役)や人買い(リウ・グアンティン)が登場する、不思議な村の日常が描かれる中、タエは赤ん坊の命を守るために奮闘する。池田暁(あきら)監督(1976年生まれ)の長編第5作は、アジア圏で映画を作り続ける小坂史子がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、出演するオダギリジョーも製作に加わった一作。台湾・金門島のオールロケーションが絶大な魅力を発揮し、日台のキャストとスタッフが監督の漫画的な作品世界を完璧に表現している。10月1日、映画祭のラインナップ発表記者会見に姿を見せた監督に、これまでの経歴や本作の魅力についてお話を伺った。
 
 
── 監督は今回、東京国際映画祭のコンペ部門へは初選出となりますね。
 
池田暁監督(以下、池田監督):観客としては毎年来ていますが、作品で参加するのは2017年に「日本映画スプラッシュ部門」で『うろんなところ』が上映されて以来です。次はコンペで参加したいと思っていたので、願いが叶って嬉しいです。
 
── 初めて監督の作品をご覧になる方も多いと思います。これまでの長編4作を振り返っていただけますか。
 
池田監督:自主映画の『青い猿』(2007)で「ぴあフィルムフェスティバル」の観客賞を受賞しましたが、なかなか次の作品が撮れなくて、『山守クリップ工場の辺り』(2013)を監督した頃には30代の半ばを迎えていました。もう映画を諦めようと思い、最後のつもりで撮ったこの作品がバンクーバーとロッテルダムの映画祭でグランプリを受賞して、監督を続けていく気持ちになりました。3作目の『うろんなところ』(2017)は、東京の街を数名の監督が分担して撮る短編映画の企画から始まったもので、撮っているうちに段々アイデアが湧いてきて、ゆるい感じで長編になった作品です。次の『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(2020)は、VIPO(映像産業振興機構)の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で撮った短編が認められて作ることができた一作です。これが東京フィルメックスで日本人初の審査員特別賞を受賞して、いまに至っているわけです。
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── ndjcは「New Directions in Japanese Cinema」の略称で、その育成プロジェクトで手がけた短編は『化け物と女』(2017)という題です。バケモノつながりのこの短編が今作の元になったのですか。
 
池田監督:いや、まったく関係ないんです。水木しげるさんの漫画が子供の頃から大好きで大いに影響を受けていて、その短編もそうですが、『うろんなところ』も妖怪みたいなのがたくさん出てくる作品なんですよ。僕の中でとりわけ描きたいのが妖怪や化物といったものなので、毎回出てきてしまうんです(笑)。
 
── では、『妖怪、化物をひろう』のストーリーはどのように思いついたのか教えてください。
 
池田監督:1996年にロシアのある村で、老女が「人間であって人間でない謎の生き物の赤ん坊」を拾って育てたという実話があり、これがベースになっています。ちょっと信じがたい話なんですが、3週間後にその赤ん坊が死んでしまい、ミイラになった写真も残っています。この話を映画にしたくて脚本を書き始めました。
 
── その話のどんな部分に惹かれたのですか。
 
池田監督:老女が得体の知れない生き物の赤ん坊を大切に育てたことです。彼女は赤ん坊に名前をつけ、食事を与えて、愛情深く育てたと言われています。異形の者への偏見を持たず、わが子のように育てたことに温もりを感じました。
 
── 老女の話の傍らで、村の権力者や人買い、妖怪を怖がる村人が登場する話が繰り広げられます。これらの要素については?
 
池田監督:それは普段、僕がこの日本で生活していて感じている事柄からです。大元はロシアの話に由来しますが、そこに自分の生活上の実感や、撮影地の台湾で得たものを織り交ぜてあります。
 
── 今回、台湾との合作に至った経緯をお聞かせください。
 
池田監督:当初は日本で撮影するつもりで脚本を書いていましたが、映画の設定自体は架空の国でしたので、プロデューサーの小坂史子さんから「どこで撮るかは大切ですよ」と言われ、ずっと台湾で仕事をされてきた小坂さんに金門島の写真をいただいたんです。それを見て、日本でもなく、台湾本土とも違う雰囲気にとても魅了されました。『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が2021年に金馬奨のある部門に招待されたとき、偶然、小坂さんがコンペ部門の審査委員を務めることになり、コロナ禍でしたが台湾で合流して一緒に現地を巡りました。そうしたら思っていた以上に面白い場所で、ぜひここで撮りたくなりました。だから、今回の合作は人ではなく場所から始まったんです。
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── 金馬奨の企画マーケットに参加したのはその後ですか?
 
池田監督:はい。2022年に応募して、本作のピッチングをして「FPP Visionary Award」をいただきました。ピッチをして意見をもらい、そこで出会ったチュウ・ヨウニンさんが台湾側のプロデューサーに就いてくれる話になり、そこから撮影までの道のりは早かったです(笑)。
 
── ピッチングは日本語でされたのですか?
 
池田監督:中国語に翻訳した資料を配布して、僕は日本語でピッチをしました
 
── 劇中には、日本語と台湾語のセリフのやりとりもありますね。
 
池田監督:映画には最終的に4つの言語が入っているんです。
 
── なるほど。架空の世界観といい、いまの言語のお話といい、この映画の魅力はまさにそうした「無国籍感」にあると思います。妖怪が水木しげるさんの影響なら、この無国籍感はつげ義春さんとどこか近い雰囲気のものを感じます。
 
池田監督:つげさんも大好きなので、きっと影響を受けていると思います。無国籍な感じにすることで、観客に「架空の国の出来事」をどこか他所ごとと感じさせないことができると考えました。どうすればより無国籍な空気感を出せるかというのは、この映画の大きなテーマのひとつでした。
 
── 主役のタエを演じる余貴美子さん、警官役で出演し、制作にも名を連ねるオダギリジョーさんとのコラボレーションはいかがでしたか。
 
池田監督:2人には2020年か2021年に出演の快諾をいただきましたが、紆余曲折があって、一時は中止になりそうな時期もあったんです。でも、両人とも諦めずに待ち続けてくれたおかげで、こうして作品を作ることができました。すごく感謝しています。
余さんは、撮影の準備段階からタエの容姿についてご相談させていただいて、かつらは余さん自前で用意し、日本から持参してきたものを使っています。役へのこだわりがあって、僕が思い描いていたタエさん像を完璧に作り上げてくれました。
オダギリさんは演技もユニークですが、作品づくりそのものや、何か面白いと思えるものをすることが本当にお好きな方だと思います。もちろん演技に対する欲求もあるんでしょうけれど、それ以上に作品づくりに関する情熱という点で心を打たれました。
 
── リウ・グアンティンさん、トゥオ・ゾンホアさんといった、台湾側のキャストはいかがでしたか。
 
池田監督:僕は台湾語を理解できないので最初は不安があったんですが、各俳優さんと現地で話をすると、全員が映画の世界にすんなりと入ってくれて非常にやりやすかったです。人買いのひとりを演じたリウ・グアンティンさんはすごく呑み込みの早い方で、僕がやりたいことを伝えるとすぐに演技に反映してくれました。柔軟性のある方だなと思いましたね。ベテランのトゥオ・ゾンホアさんは医者と警察署長の2役を楽しみながら演じていて、余裕綽々でした(笑)。
 
── 日台の混合キャストが、まるでアンサンブル劇団のように同じトーンの演技を見せ、コミカルな笑いの世界が展開されます。セリフの喋り方や間合い、空間や小道具を生かしたギャグなど、その笑いはどこか古典映画に近いテイストがあります。
 
池田監督:そうですね。もちろんコメディ映画の影響はあると思いますが、「人の滑稽さ」みたいなものを描こうとしている部分は、小津安二郎監督の影響を受けていると自分では思っています。題材面で影響を受けたのは水木さんですが、映画技法の面や人物の描き方などは小津さんに学んだものが多いですね。
 
── ちなみに、小津監督のように絵コンテは描くんですか?
 
池田監督:全カット描きます。あまりコンテにとらわれないで撮影したい気持ちもあるのですが、描いておかないと自分がそのシーンで何を撮りたかったのか忘れてしまうので。でも、必ずしも絵コンテどおりに撮ってほしいわけではなく、あくまで指針くらいに考えています。
 
── とはいえ、絵コンテがなければ、これだけ絵力のある映画にはならなかったと思います。撮影だけでなく、美術や衣装もどこか個性的で、夜景を彩る照明の当て方もユニークです。
 
池田監督:照明については、金門島のロケハンのとき、撮影の池田直矢さんに「海に囲まれているこの小島では、灯台のあかりを点せば、夜でも海や入り江があるのを表現できるんじゃないか」と言われて、脚本に要素を加えるうちに、別の使い方も見えてきたんです。ですからこの映画では、すごく効果的に光を使えたと思います。
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── 赤ん坊のハルの造形(クリーチャー)には手作り感がありますね。
 
池田監督:この映画の主役のひとりであるハルは、余さんが演技する上で「現場に絶対にあった方がいい」と最初から思っていました。これもまた自分の好きな人の話題になってしまい恐縮ですが、僕はヤン・シュヴァンクマイエルが大好きなんです。彼の場合はストップモーションのコマ撮りですけれど、実物自体が本当に動いているということに惹かれるところがあって、この作品でもそうした感覚を大切にしたいと考えました。最近見た『マンダロリアン・アンド・グローグー』のグローグーも実物を作って動かしていますし、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のロッキーも、人に聞いたらどうやら同じ手法らしいです。ハリウッドの大作でもやっていることは僕らとあまり変わらないんだと、嬉しくなりましたね。映画として、また作り手として、そうした実写ならではの表現が再度見直されているのかなと思っています。
 
── 最後に、映画祭にお越しになる観客へメッセージをお願いします。
 
池田監督:今回、台湾と日本の合作で、どこか普遍的な、誰もが抱ける感情をベースにした作品を手掛けました。ぜひこのコンペ上映でご覧いただけたら幸いです。
 
 

2026年10月1日 スパイラルホール 取材構成 赤塚成人(四月社)
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